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Gallery Salon H

「余白と奥行き」

私たちの意識の外側で強く蠢くものと物理的現実との間には、まだ明らかにされていない、あるいは私たち人間が遥か昔に忘却してしまったものと深い関わりがあるように感じる。名前が与えられた感情ではない何ものとも言い難い知覚そのものを、簡潔さを突き詰めていくことによってのみ獲得しうる、ある種の純粋性とともに建築へと投影し、人々の意識の外側を活性化することはできないだろうか。純粋性=他者を寄せ付けない排他性ではなく、純粋であるからこそ多様な他者をも許容しうる想像の余白があり、言葉の範疇に収まらない複雑性を帯びた知覚であるからこそ、表層的な広がりだけでは留まらない奥行きが生まれることもあるだろう。そのようなことを考えながら設計を行なったプロジェクトである。

敷地は三重県伊賀市。室町時代から焼物の産地として知られ、江戸時代には伊勢神宮への参宮者の宿場町として栄えた歴史あるまちである。現在は市の中心部を横断する名阪国道の南側に、巨大な工場が立ち並ぶ工業地帯としての顔を併せ持っている。それらの工場群に近接した、1970年代に開発された住宅地の一角に建つ、ギャラリーとサロンのコンプレックスである。台形平面の建物内部では、ギャラリー部とサロン部の境界に、台形斜辺とはまた別の角度をもった耐力壁を立て、上部にハイサイドライトを設けた。その角度によって、ギャラリーではハイサイドライトから曲面天井までの距離に変化が生じ、トンネル状の長細い空間にグラデーションのかかった光が落ちる。同時にサロンでは合わせ鏡に角度が生じ、鏡内空間に先の見えない奥行き感と、背中合わせの利用者同士の視点にズレが生まれる。壁・天井全体は、シルバーの油性塗料を均一に塗り重ねた後、人の手で細かく研磨することによって独自の物質性(時間の表出)を獲得し、この建築を自律した存在として取りまとめている。 

PROGRAM: Gallery + Salon
AREA: 120m²
LOCATION: Iga, Mie
STRUCTURAL ENGINEER: Jun Yanagimuro
BUILDER: MORIDAI
PHOTOGRAPHY, VIDEO: Yosuke Ohtake
PUBLICATION: GA JAPAN 176, 新建築2022年7月号, 商店建築2022年10月号